2026年6月20日
暗記の全て
筆者紹介
きおくま開発者
医学部5年生。暗記アプリ「きおくま」を開発しています。受験から医学部までの経験をもとに、暗記や勉強法について日々情報を発信中。
暗記から、理解へ。
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自分に合う暗記法は、自分でしか見つけられない
「効率的な暗記法」で検索すると、ものすごい量の情報が出てくる。反復学習、語呂合わせ、マインドマップ、フラッシュカード……どれも一定の根拠があって、実際に効果を感じている人もいる。でも私は長いあいだ、これらを読み漁るわりに自分の勉強には使えなかった。
今ならその理由がわかる。暗記のやり方は、分野によって全然違う。英単語を覚えるのと、生理学の機序を覚えるのと、化学反応式を覚えるのは、それぞれ頭の使い方が異なる。さらにいえば、同じ人間でも得意な記憶の形式はある程度決まっていて、語呂が得意な人もいれば、図にしたほうが入る人もいる。
つまり「最強の暗記法」は存在しないし、誰かの体験談がそのまま自分に当てはまるとも限らない。結局のところ、ある程度の量をこなしながら「自分にはこれが合う」を見つけていくしかないのだ。遠回りに聞こえるかもしれないが、私はそれが唯一の近道だと思っている。
効率は「後からついてくる」もの
英単語の暗記を例にとってみる。
ある程度英語を勉強した人に「英単語をどうやって覚えるか」を聞くと、たいてい「接頭辞・接尾辞を意識するといい」という話が出てくる。たとえば un- がつけば否定、-tion がつけば名詞、といったパターンを知っていると、見慣れない単語でも意味を推測できるようになる。
これは確かに正しい。正しいのだが、英語をゼロから始めた人に同じことを言っても、「そうですか……」で終わる。体感として理解できないからだ。
接頭辞・接尾辞の話が「なるほど」と腑に落ちるのは、すでに何百・何千という単語を無理やり頭に詰め込んだ後だ。点として存在していた単語の知識が、ある日突然つながって線になる瞬間がある。「あ、これって re- がついてるから、やり直すみたいな意味か」と気づく瞬間。その体験があって初めて、パターン学習が「使える武器」になる。
つまり、効率的な暗記法は、ある程度の量をこなした先にある。最初から効率を求めると、量が圧倒的に足りないまま「覚えられない」と諦めてしまうことになる。
点が線になる瞬間
私は今、医学部の5年生だ。受験期から数えれば何年も暗記と向き合ってきた。浪人時代にはひたすら問題集を解いて、医学部に入ってからはCBTという大きな試験をこなして、そこそこ暗記はやってきたほうだと思っている。
ところが、いまだに「どうやって覚えるのが最適なんだろう」と悩む場面がある。特に医学の知識は膨大で、覚えるべき項目の種類も多い。
医学の勉強で気づいたことがある。暗記って、同じ知識を別の角度から問われる経験によって、じわじわ頭に焼き付いていくことだ。
たとえば皮膚の構造。表皮・真皮という層があって、血管が通っているのは真皮だけで、表皮には神経のみが走っている——こういう知識を丸暗記する。(ちなみに表皮が皮膚の一番外側にあるもので真皮はその下にあるものだ)
次に「出血していない傷はどこまで達しているか」という問題が来る。さっき覚えた通りに考えると、血管のある真皮まで達していないから表皮どまりということになる。火傷の深達度の話でも同じ考え方が使える。
この「角度を変えた問い」に何度も当たることで、バラバラだった知識が体系として結びついていく。暗記が理解に変わる瞬間というのは、たいてい「あ、さっきの話とつながった」という体験から来る。
こういった体験を経験すると、同じ文字を5回見るよりも強烈に記憶に残る。つまり忘れにくくなる。
「暗記が苦手」は努力量の問題も少なからずある
以前、ボランティアで中学生に勉強を教える機会があった。「英単語が全然覚えられない」と言う子がいたので、どんな勉強をしているか聞いてみた。
先生に言われた単語を見て、塾でも見て——という感じで、1つの単語に触れる回数はせいぜい2〜3回だった。
私からすると、それで覚えられるわけがない、というのが正直な感想だった。自分はと言えば、1つの単語を5回・10回と繰り返して、やっと覚えられるくらいだ。医学部に入ってからも、暗記が飛び抜けて速い同期を何人か見てきたが、彼らですら何度も何度も復習している。
「暗記が苦手」と言う人の多くは、単純に繰り返す回数が少ない可能性が高い。(もちろん、人によってその繰り返す回数は異なると思うが)
筋肉は筋トレすれば大きくなると信じる人は多いが、なぜか記憶力に関しては生まれた時から決まっていると思い込んでいる人が多い。勉強すれば記憶力も良くなるかもしれないのに。
色々な暗記方法について
今から紹介するのは私自身にとってはとても効果が高いと感じられたもの、感じられなかったものの暗記法だ。人によって私にはこれが合うなというものがあると思うので、ぜひ色々と試してほしい。
ちなみにだが、勉強においてはきつければきついほど効果が高いと考えてもらって大丈夫だ。楽な勉強法ほど効果が薄い、というのは体感としてもかなり一致している。

先に隙間時間に暗記する、について
これは半分あってて、半分間違ってると私は思っている。暗記カードとかそういったものを休憩時間に復習するのはいいかもしれないが、初見のもの(例えば英単語帳の新しいページの単語を覚えるとか)を隙間時間で暗記しようとするのはやめた方がいい。
初見の知識というのは、それなりに腰を据えて向き合わないと頭に入ってこない。電車の中や授業の合間に「じゃあ今日は新しい範囲やろう」としても、周囲の雑音や時間的なプレッシャーがあると集中が分散してしまい、ぼんやりと眺めて終わるだけになりやすい。隙間時間はあくまで「すでに一度入れた知識の定着を確認する場」として使うのが正解だ。隙間時間で初見のものを暗記できるほど、人間の脳は都合よくできていない。
睡眠
これは最強だ。寝る前に頭に無理やり詰めて、朝その復習をする。
なぜ効果があるかというと、睡眠中に脳が記憶を整理・定着させるプロセスが走るからだ。寝る直前に触れた情報は、その夜の睡眠によって処理されやすいと言われている。だから寝る前に詰め込んだことが、翌朝見返したときに「あ、意外と覚えてる」という感覚になりやすい。
注意点としては、寝る前に詰め込む内容は新しいものに限らず、その日の復習も混ぜるといい。完全に初見のものだけより、一度触れたものと新しいものを組み合わせた方が翌朝の定着感が高い気がする。あとは当然だが、睡眠時間を削ってまで詰め込むのは逆効果なので、しっかり寝ることが大前提だ。
忘却曲線に沿って復習
これも便利だ。エビングハウスの忘却曲線というのがあって、人は覚えた直後から急速に忘れていくが、適切なタイミングで復習すると忘れにくくなっていく、というものだ。
最初の3回とかはもう無理やり覚えるしかないかもしれない。何度見ても頭に入ってこない、という苦しい時期がある。ただ、4回目ぐらいから感覚が変わってくる。復習の間隔が空いてきて、ふとした瞬間に「あ、これ前に見たやつだ」という感じで浮かんでくるようになる。さらに繰り返していくと、日常のある出来事と結びついたり、他の知識との繋がりが見えてきたりして、「これとこれって同じ原理じゃん」みたいな発見が増えてくる。この段階まで来るとほぼ忘れなくなる。
スケジュール管理は自分でやろうとすると面倒なので、アプリを使うのが現実的だ。いつ何を復習すべきかを自動で出してくれるものを使えば、脳のリソースを暗記そのものに集中できる。
語呂合わせ
何がなんでも覚えられないものはごろでなんとかしよう。化学の「すいへーりーべーぼくのふね」とかそんな感じで。
語呂合わせのいいところは、順番まで結びつけられるところだ。「すいへーりーべー」は元素名だけでなく、水素・ヘリウム・リチウム……という原子番号の順番ごと頭に入る。単なる羅列をそのまま覚えようとすると「なんだっけ、3番目」となりやすいが、語呂が入っていれば「ふね……の次はなんとか」と手がかりを辿れる。
医学部あるあるなのだが、自分が覚えやすいように即興で作った語呂合わせが、かなりきわどいものになることもある。過去問を後輩に見せる時に、書き込んである語呂合わせが恥ずかしすぎて渡す前に全部に目を通す、というのはよくある話だ。そういう意味では、人には見せられないような語呂合わせほど強烈に脳に残るのかもしれない。
何度も思い出す
これはきついが効果はある。勉強が終わって風呂に入って、ぼーっとしている時間に、さっき勉強した内容を頭の中で能動的に想起してみる。何も見ずに、自分の頭だけで「あれはこうで、次はこうで……」と再現しようとする作業だ。
なぜきついかというと、思い出せないからだ。勉強したばかりなのに意外と出てこない、という体験をする。ただそれがいい。思い出そうとして引っかかる、という経験が記憶を強化する。これをテスト効果と呼んだりもする。教材を読み返すより、何も見ずに思い出そうとする方が定着率が高い。
風呂やベッドに入ってからやると、思い出せなかった部分がどこかがわかるので、次の日に何を優先して復習すべきかも自然と明確になる。
分割して覚える
電話番号で言うと、「09012345678」よりも「090-1234-5678」の方が覚えやすいはずだ。これはチャンキングと呼ばれる考え方で、情報を意味のあるかたまりに分けることで記憶の負荷を下げる方法だ。
英単語でも使える。例えば「international」という単語は一塊で見ると長く感じるが、「inter / nation / al」と分解すると「国をまたぐ」というイメージと結びつけやすくなる。接頭辞・語根・接尾辞の知識があると、知らない単語に出会っても意味を推測しやすくなるおまけもある。
暗記したい情報をただ眺めるのではなく、どこで区切れるか、どこに共通点があるか、を少し考えてから覚えにいくと効率が全然違う。
強烈な画像を作ってもらう
どうしても覚えられないものは、AIなどにその内容を表した強烈なイメージ画像を作ってもらおう。「この単語のイメージを、忘れられないような奇妙でインパクトのある絵で表現してほしい」と頼むと、面白い画像が出てきたりする。
なぜ画像が有効かというと、脳はテキストより視覚的なイメージの方が記憶に残りやすいからだ。しかも「強烈」であればあるほどいい。ちょっとおかしな画像、グロテスクなもの、笑えるもの……感情や感覚を伴った記憶ほど定着しやすいという性質がある。
ただし時間がかかるので、これは本当にどうしても覚えられないものだけに使う手段だ。全部の単語に画像を用意しようとすると、画像を作る作業が目的化してしまう。
背景知識をつけて関連づける
年号と出来事を覚える時、ただ「1492年、コロンブスがアメリカ到達」と丸暗記しようとするよりも、その時代のヨーロッパの状況や、なぜスペインが支援したのかという背景まで知ると、芋づる式に思い出せるようになる。
背景知識を調べるのは確かに手間だ。面倒だからまず丸暗記しようとするのはわかる。ただ、背景なしで無理やり詰め込んだ知識は1ヶ月後には抜けていることが多い。結局また覚え直す羽目になる。最初に少し時間をかけて「なぜそうなるのか」を理解しておく方が、トータルの勉強時間は短くなることが多い。
特に医学は、病態の仕組みを理解していれば症状や治療が自然に導けることが多いので、丸暗記より理解先行の方が圧倒的に楽だと実感している。
あんまりお勧めしない暗記法
書いて覚える
英単語の綴りを確認するために書く、というのは必要だ。ただ、復習のたびに毎回手で書く必要はない。書くという行為は時間がかかる割に、記憶への貢献は思ったほど高くない。同じ時間で何度も頭から引き出す練習をした方が効果的だ。「書いてる=勉強してる感」が出やすいのが落とし穴で、手を動かしながら頭はぼんやりしている、ということが起きやすい。
見て覚える
誤解がないように先にお伝えしておくと、問題を見て答えを頭の中で想起してから答えを確認する、というのは効果がある。問題は「ただ教科書を読む」だ。目でテキストを追うだけの行為は、覚えているつもりになりやすいが実際には定着していないことが多い。「さっき読んだのに思い出せない」という経験は、これが原因なことが多い。読むだけでは記憶の引き出しは作られない。
聞いて覚える
リスニング対策として英語を耳で聞くのはいいが、暗記の手段としては効率が悪い。情報の密度が低く、聞き流しているだけになりやすい。寝ながら英語を聞くと覚えられる、みたいな話もあるが、私の経験では効果を感じたことはない。
暗記すべきことを書き出す
整理する目的でノートにまとめるのは、それが短時間で済むなら悪くない。ただ、きれいなノートを作ることに数時間かけてしまう人がいる。目的は覚えることで、ノートを作ることではない。完成したノートを眺めて満足してしまい、実際には何も覚えていない、というのが最悪のパターンだ。
運動しながら覚える
これは私自身はよくわからなかった。ウォーキング中に音声教材を聞くとか、そういったことを勧める記事は多い。科学的にも運動が認知機能にいい影響を与えるという研究はあるようだ。ただ個人的には、歩きながら聞いても頭に入ってくる感じがしなかった。これは人によって合う合わないがかなり分かれる気がするので、試してみて合えばラッキーくらいに思っておくといいかもしれない。
まとめ——暗記はまず量を
効率的な暗記法を探している人に伝えたいのは、一見矛盾するようだが「まず量をこなせ」という話だ。
最初のうちは、接頭辞のパターンも忘却曲線も、知識として知っていても体感できない。量をこなしていくうちに、点だった知識が線になる瞬間が来る。そこからやっと「効率的な暗記法」が自分のものになる。
効率は後からついてくる。疑わずに量をやること——それが、遠回りに見えて一番の近道だと私は思っている。




